大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)465号 判決

被告人 佐藤和幸

〔抄 録〕

所論は被告人の自動車は積荷を満載したわけではなく二トン車に一トン位の積荷であつて、十分安定性があつたとか、轍の跡は狭い道路の略中央にあるため、ここを進行することが運転者の常識であり、被告人も轍の跡を進行することが最も安全であると考えたのであつて、漫然と運転したのではない。原判示の如く轍の跡を避けて車体を右方に寄せれば寧ろ崖に接触して危険であつたと主張し、被告人には原判示のように運転上の過失があつた訳ではないとの旨主張するのである。しかしながらもともと自動三輪車は四輪車に比して安定性を欠く車輛であるのみならず、記録によれば被告人が運転した原判示小型貨物自動三輪車は最大積載量二トンであるところ、当時後部荷台等には長さ約四メートルの鉄管二本外鉄屑ボロ等一トン余りの品物がうず高く積載せられていて地上二メートル位に達し、車体が傾くと積荷のために一層倒れやすくなりその安定性を欠いていたことを認めることができるので、原判決が積荷を満載していて安定性が極めて低かつた旨判示した点については、何等事実の誤認は存しないといわなければならない。しかるに被告人は安定性の極めて低い貨物自動三輪車を運転して、原判示の幅員僅かに三・一メートル位の狭隘な下り勾配で且つ見透もきかない右カーブをなした上、降雨のため地盤がゆるみかつ道路上にある数条の轍の跡が路面の凹凸をはげしくしていて、しかもそこに水がたまつている個所にさしかかつたのであるから、その場合車両の運転には如何なる危険の発生、交通上の障害が起るか判らないので、運転者は危険の発生を防止し、交通の安全を図るために深甚の注意をしなければならないことは当然である。これが為には、原判決も判示するとおり最徐行等の方法により慎重に運転操作するばかりでなく、危険な轍の跡を避けて右方に車体を寄せるとか、同乗者を降車させて誘導して貰うとか、或いは車両の動揺を防ぐため積荷の一部を一時降して進行するとか、その際における時宜に適した処置をとつた上、事故の発生を未然に防止しなければならないことは、運転者のとるべき注意義務であることは明らかである。(所論は轍の跡を避けて車体を右に寄せれば、寧ろ崖に接触して危険であつたと主張するけれども、原判決は必ず轍を避けて車体を右の山側に寄すべきものとして要求している趣旨ではなく、要するにその際における時宜に適した方法の一例として示したものと解し得るのみならず、記録殊に司法警察員の実況見分調書添付の図面、写真、被告人の検察官に対する供述調書の記載によれば、轍より右側を進行することも強ち不可能でなかつたことが窺えるので、所論の如く主張して原判決を非難することは、その理由がないといわなければならない。)然るに被告人は本件現場に差しかかり一旦停車して路面の状況を窺つたが轍の跡を通過し得るものと軽信し、毎時五キロメートル位の速度を以て漫然轍の跡を進行せんとしたため、本件事故を惹起するに至つたので、被告人はその場合における運転者のとるべき注意義務を尽したものとは認められない。その他所論に徴し記録を精査検討しても原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認は存しない。

(三宅 東 井波)

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